賄い飯
私は、大学時代2年近く銀座の居酒屋でホールスタッフのアルバイトを続けましたが、アルバイト仲間と親しくなる事は全くといって良いほどありませんでした。お金目当てだけで嫌々働いているのが見え見えで、目を盗んではサボろうとする連中ばかりで、全然好感が持てなかったのです。
その代わり、店長始め、女性スタッフ、厨房の調理スタッフ、皿洗いのおばちゃんからは職場の仲間として認められ、親しく付き合わせて頂きました。そうなったのは、私の元々の性格もそうだったのでしょうが、アルバイト自体が初めてで、これまで見た事もない新鮮な経験であった事、美味しい食べ物、アルコールをタダで頂ける普通では経験出来ない環境であった事、スタッフが厳しいけれど心の温かい人達ばかりであった事など、後の職場と比較してもそれ以上の所はなかったような、一生懸命働く事の出来るモチベーションが重なった結果だろうと思います。それは秋葉原周辺のバイト探しをして初めて気付きました。
私がアルバイト先で認められたのは、所定の仕事を一人で出来るようになった頃ではなく、他の人の仕事をヘルプ出来る様になった時でした。まだ未熟な頃、いつも手助けしてくれた寡黙なホール主任、この方は店長と共にたった二人の正社員の方で、きちんとした企業研修を受けてた人でしたが、私が余裕が出来る様になった頃、それまでの恩返しをしたいと思い、主任のやっている仕事を手伝う様になると、店全体の仕事の流れや、各部署の決まり事を覚えた事から、どんな時間帯ににどこがボトルネックになるのかを体感し、自然にヘルプする様になりました。
そんなある時、厨房のチーフ、この人が店内で一番怖い人でしたが、明日は3時に出勤出来るかと聞いて来ました。何か新しい仕事を命じられるのだろうと指定の時間に出勤すると、賄い飯を用意されていました。そして毎日用意するから、いらない時は前の日に断わりをしろと言われたのです。嬉しい驚きでした。この時、仲間として認められたと実感したのです。それまで、ミスオーダーやお客が手を付けなかった残り物を食べていいと言われて、店のメニューを食べた事はありましたが、賄い飯は比較にならない位美味しいものでした。今ではテレビで再三紹介されているので、賄いはそう珍しいものではありませんが、当時はお金を出して他の店で食べるのが馬鹿らしいと真剣に思った程の味でした。
例えアルバイトであっても、職場全体の為に全力を尽くせば、真の職場の仲間として認められる、そんな貴重な経験を積む事が出来た事を今でも誇りに思っています。